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ラブライブ!SS ことり「私の一番輝ける場所」

今回初のラブライブ!SSにチャレンジしてみました。
記念すべき第1弾は、伝説のメイドことミナリンスキーメインのお話。
掌編程度の短いものですが、楽しんでいただけると幸いです。

興味のある方はmoreからどうぞ~。



 カラ~ン。
 落ち着いた内装の店内に、今日も可愛らしいベル音が鳴り響きます。
 更衣室にある鏡の前で制服の身嗜みをチェックしていた私は、すぐさま元気に返事をしてお客様をお迎えします。
 さて、今日も頑張らないと!
「いらっしゃいませ! あ、穂乃果ちゃんに海未ちゃん!」
「やっほー、ことりちゃん。今日から一緒にアルバイトさせてもらえるんだよね? ちょっと時間より早いけど来ちゃったよ」
「穂乃果ったらはりきり過ぎちゃって、止める間もなく教室を飛び出すんですもの。合流するのが大変でしたよ」
「えへへ、だってメイド喫茶で働くなんて面白そうじゃない! 接客は家の手伝いでやらされているけど、そろそろ飽きてきたし」
「まったく……何度も言いますけど、これはことりの作詞が捗るように手助けするためであって遊ぶためじゃないですよ」
 穂乃果ちゃんを横目で見て、海未ちゃんは呆れたようにため息を漏らします。
「あの、二人ともホントにごめんね。私のためにこんなことまでさせちゃって……」
「ことりが気にする必要はありません。私たちが自発的にしたいのですから」
「そうだよ。むしろここではことりちゃんは先輩になるんだから、仕事のこととか色々教えてよ!」
 優しく励ましてくれる幼馴染みたちに、私は、ありがとう、と最高の笑顔で応えます。
 うん、そうだよね。二人は今日が初めてなんだし、私がしっかりしないと!
「それじゃあ、まずは制服に着替えてもらおうかな。更衣室はあのドアの奥だから」

「ほ、本当にこれを着ないといけないのですか……?」
 支給された制服一式に視線を落とし、愕然とした声を上げる海未ちゃん。
 黒と白の対比が映えるエプロンドレスに、フリルのついたヘッドドレス。多様なデザインが生まれては消えていく中で、ここは敢えて誰もが想像できる正統なメイド服を採用している。
 私がアルバイトを引き受けた理由もその一つ。シンプルなんだけど、女の子ならちょっと憧れちゃうくらい、とっても可愛かったから!
μ’sの衣装と違って膝下まで隠れるし、恥ずかしがり屋の海未ちゃんにも大丈夫だと思ったんだけど……うーん、やっぱりまだ抵抗あるのかな?
「いえ、そういうワケでは……。ただ、これを着て接客しなければならないと思うと……」
「もう! 海未ちゃんは心配性なんだよ! もっと自分に自信持ちなよ」
 穂乃果ちゃんの台詞は、そのまま今の私にも刺さります。
 幼い頃から少し内気で、二人に引っ張られる形で過ごしてきた自分。
 もちろん、昔は引け目や気後れを感じることはなかったけど……そう、ちょうど私たちのすべてが始まったあの日――。

『私、アイドルになる!!』
 教室で高らかに宣言した穂乃果ちゃんの決意。
 それは突拍子のない、そして周りから見れば単なる思いつきに過ぎない夢。
 雑誌のスクールアイドル特集に影響されて、まるで自分たちもやればできるはずだと信じているような目だった。
 ファンもいない。注目もしてもらえない、まったくゼロからのスタート。
 けど、穂乃果ちゃんの瞳は、雑誌のスクールアイドルの娘たちと同じように輝いていて――。
 ううん、きっと穂乃果ちゃんだって心の奥では分かっていたはずだ。
 アイドルなんて大きな夢、叶わなくても当たり前だって。なんの取り柄もない自分がその夢に挑戦すること自体、笑われてもしょうがないって。
 でも。でもね。
 そうやってやらない内から諦めるのはもっと嫌いだってトコロが、他の子と違うんだ。
 誰にだって夢を追いかける資格はあるはずなんだから。
 一人では届かなくなって、みんながいれば叶えられるかもしれないから――。
『ねぇ、海未ちゃん。私、やってみようかな』
 それは自然と口から漏れた言葉。
 講堂裏で孤独に練習を続ける穂乃果ちゃんに、海未ちゃんと二人で手を差し伸べた日が昨日のことのように思い出されます。
『独りでやったって意味がありません。やるのなら三人でやらないと』
 そんな感じで、最初は右も左もわからないまま、私たちのアイドル活動、通称「アイ活」はスタートしました。
 だからこれは“私たち”の夢。
 大きくて遠い、学校の存続をかけた一大プロジェクトなのだ。
 あ、ちょっと脱線しちゃったかな。話をもとに戻すね。
 こうして三人で歩き出したμ’s(私たちのアイドルグループの正式名称です)だけど、活動開始早々、様々な壁にぶつかりました。
 作詞、作曲、振り付けにステージ衣装、そしてライブ時の照明や音響係。
 モニターをただ眺めていただけでは意識してなかったけど、有名なスクールアイドルの娘たちはこれらを全部こなしているんだよね。
 私たちは三人しかいないから、適材適所ってことで、宣伝や広告を穂乃果ちゃん、作詞を海未ちゃん、ステージ衣装を私、そして作曲は一つ下の西木野真姫ちゃんが担当することに。
 秋葉原でこのアルバイトを勧められたのも、ちょうどその頃でした。
『そんな……私、アルバイトなんて……』
 海未ちゃんほどじゃないけど、私もこういうことには消極的なほう。一度は断わろうともしたけど、メイド服を着てみたい衝動に駆られ、始めはお試し期間という条件付きでシフトを組んでもらうことになりました。
 人生初めてのアルバイト。
 普段とは少し違う自分になれる空間。
 変わることを望んだ自分と、それを受け入れてくれる街の雰囲気は、不思議と心の中で溶け合って、なんだか優しい気持ちにさせてくれる。
『私は、穂乃果ちゃんや海未ちゃんと違って何もないから……』
 穂乃果ちゃんみたいにみんなを引っ張っていくことも、海未ちゃんみたいにしっかりもしていない。
 そんな自分が唯一変われる場所。きらきらと輝ける場所。
 それがここ――。
 だから私は、このお仕事が大好きです!
 自信を持って取り組める、この街が、この環境が、ホントに大好き!
 そんな今の私にできる精一杯を込めて――
「じゃあ、基本的なことから教えていくね。まず、大切なのは笑顔。そしてお客様への感謝の気持ちとおもてなし。二人は簡単な接客用語だけ覚えればいいから、私の後に続いて真似してみてね」

「いらっしゃいませ、ご主人様♪」
「いらっしゃいませ、ご主人様!」
「いらっしゃいませ、ご主人様……」
「きゃ~、可愛い! 二人ともばっちりだよ」
 控え室で軽く基礎を流してから、早速お店に出て練習。この時間帯ならお客さんも少ないし、お仕事に慣れてもらう余裕もありそう。
 店長には少し無理言っちゃったけど、まずは『楽しさ』を見出さないとね!
 カラ~ン。
「にゃー! 遊びに来たよ!」
「あれ、凛ちゃん。それに他のみんなも」
 お客様第1号は、もうすっかり顔なじみのμ’sのメンバー。
 私にとっては家族のような存在で、こうやってみんなが集まると、まるでここが部室のように思えてきちゃうくらい。
 でも、練習の方はいいのかな……?
「気にしないで。あなたたちが抜けた状態じゃ、ダンスポジションも掴みづらいし、しばらくは各自で基礎練習の反復ってことにしたから」
「それに、こんな面白いこと見逃す手はないやろ?」
 そう言いながら希先輩が取り出したのは、取材のときにも使ったビデオカメラ。
 黒く、妖しい輝きを放つそれに、海未ちゃんが「うっ」と引きつった声を上げます。
「ではでは、早速取材を~」
「やめてください! なぜみんな」
「私が呼んだの。歌詞を考えるなら、やっぱりみんなにも来てもらった方がいいと思って。ほら、『九人揃えばぶん…なんとかの知恵』って言うじゃない?」
「……それを言うなら『三人寄れば文殊の知恵』です」
「えっ!? じゃあ、私たちだけでもよかったってこと!?」
「いえ、そういうことではなく……」
「はぁ……やっぱりこの人たちダメかも」
 漫才のようなやり取りに、後ろで真姫ちゃんが頭を押さえます。
 ふふ、今となってはこれもすっかり日常の光景です。スクールアイドルを始めていなければ、ここまで色んな人と関わることはなかったと思います。
 穂乃果ちゃんの夢が、私と海未ちゃんの夢になり、そして今では私たち九人の夢になっている。
 同じ目標に向かって進んでくれる仲間がいるって素敵だよね。
 とは言え、いつまでもお店の入口に固まっていたのでは他のお客様のご迷惑になります。とりあえずお席にご案内しないと。
「それよりも早く接客してちょうだい」
「あ、ええと……」
「はい。只今、お伺いいたします」
 にこ先輩に催促され、戸惑う海未ちゃんに私はウインクを送ります。
 南ことりではなく、ミナリンスキーとして。
 さあ、今日も精一杯頑張ろう!

~終わり~


<あとがき>
まずはこんな拙い作品を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ことりメインではありますが、自分にとって「ラブライブ!」という作品は『夢に向かって突き進む!』という部分が大きいので、そういう面も描いてみました(書いてて思ったけど、やっぱり穂乃果の存在って大きいよね)
時系列的には、アニメ第9話を背景に、ことりの心情を加えた補足という感じになってます。
次回はもうちょっとオリジナリティを出したい所。

あと、ラブライブ!SIFがいよいよ配信されましたね!
その辺もネタにできたらいいなと思いつつ。
では!

by broken-range | 2013-04-17 20:55 | ラブライブ!SS