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「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」読了

桜庭一樹さんの「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」読了しやした。
名前からしてミステリの類いだろうか、とネットで眺めていたときは思ってましたが……うん、裏表紙に書いてあるように、これは”切実な痛みに満ちた青春文学”です。

昨今、問題になっている家庭内暴力や引きこもり、クラス内の社交界、貧しい家庭環境などを主人公の女の子の視点からえぐるように書かれていきます。
雰囲気的に近いのは多分「ボトルネック」あたりかなー、と思いますけど、読了後の後味の面で比べると、こちらのほうが、まだある程度カタルシスを感じることができるかと思います。
まあ、それでも悪意や暴力や鉈やバラバラ死体、そして何より少し不安を煽るような登場人物と文章で綴られていくので娯楽小説とは言えないかもしれません。桜庭さん本人もそう指摘していますし。

さて、全体的にはそんな感じですが、今度は物語の部分部分を切り取ってみていきます。

まず、最初――海野藻屑(うみのもくず)が転校してきた場面。
自分のことを「人魚」だと主張し、「どんなに人間が愚かか、生きる価値がないか、みんな死んじゃえばいいか、教えてください」、とクラスに言い放ちます。
常に携帯しているミネラルウォーター。体中にできた痣。引きずっている足。
そして、それらをちらっと見た主人公に一言。
「死んじゃえ」

第一印象としては、なんだか怖い感じの子だなあ……、と思いました。どことなくホラーっぽい雰囲気が出てて。
や、もちろん読み進めていくと、藻屑が妄想しがちな子であることも全身に痣があることも、ちゃんと原因があるのがわかるんですけどね。
それがわかったときは、「ああ、なるほどね」と納得するのと当時に、ちょっと安心してしまいました。
人魚の設定、鉈、亀裂の入った親子関係……と、なんかそれまでは、妙に現実感が伴っていないような感じがしていましたから。
あ、あと引きこもりで”神の視点”を持つお兄さんとかね。

だから最後のほうは、ようやく地面に足が着いたというか、現実に戻ってきたというか……うん、表現しづらいけど、文庫の解説から引っ張ってくるなら”カタルシス”を覚えたのでしょう。
どことなく奇妙で、それでいて現実問題を深く言及した作品。そんな一冊として心に残りました。

では、ろりこん!

by broken-range | 2011-10-02 19:51 | 読書レビュー