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1/365 ~mysterious day~ Final

はい、謎解き編です。
これにて、この話は一応終わりです……が、実際にはまだ続きます。






「最初に結論から言ってしまいますが、僕を除くこの場にいる全員が共犯です」
「それはちょっと違うぜ、参道。俺と宝生と太谷さんはこの誕生日会に呼ばれただけで、『ドッキリ計画』には関わっていないよ」

 鈴笠が訂正してくれる。
 まあ、確かにそんなに大勢が参加しても役割が余っちゃうか。
 とにもかくにも、その三人を除いたみんなが共犯という前提で僕は推理を披露する。

「まず変だなと感じたのは、委員長が消えた現場に“あるべきはずの物がなかった”ことなんだ」
「あら、どこかおかしな所なんてあったかしら」

 委員長が首をひねる。どうやら自分でも過ちに気付いていないようだ。
 僕は委員長の傍らにある鞄を指さして、

「鞄だよ。委員長を消すだけなら、わざわざ重たい鞄まで消す必要なんかないよね。それが第一の疑問点だったんだ。つまり、魔術師トワイライトはどうして鞄まで消す必要があったのか?」
「なるほどな。潤も良い目をしている」

 リュウさんが褒めてくれるのを、軽く頭を下げて応える。

「そして次に違和感を覚えたのは、トワイライトがトイレに残していったカードの内容……」

 僕は制服のポケットからカードを取り出して、みんなに見せる。

「よく見てください。カードには『絵桐時葉は私が消した。彼女を見つけたければ視聴覚室まで来ることだ』と書かれています。つまり、トワイライトは委員長の本名を知っていて、かつ学校の構造にも詳しい人物だと考えられます」
「ちょっと待って、潤君。それだと矛盾が生じるわ。だって、希ちゃんは彼女の本名を知らないし、潤君の学校にも行ったことないのよ」

 真帆さんが異議を唱える。

「ええ。だから、“学校に現れたトワイライトと、『ストア・ヒル』で僕と対決したトワイライトは別人なんです”」

 僕が委員長と我が担任に視線を送ると、二人はさっと目を逸らした。どうやら当たりらしい。

「さて、カードの文からはもう一つ情報が読み取れます。それは、“トワイライトは最初から委員長にターゲットを絞っていた”ということです。文面はワープロで書かれているのですからね。穂村が視聴覚室で叫んだように、なぜ委員長を狙ったのか? そこまで考えて僕はある一つの可能性を思いつきました。現場から鞄まで消えていたこと、トワイライトの特徴、そしてカードの文……。この一連の失踪事件はすべて委員長の一人芝居だったのではないか、と」
「待って。なおちゃんがトワイライトとは考えられないの?」

 太谷さんの意見に僕は首を横に振る。

「それはないよ。穂村はその後ずっと僕と行動を共にしているし、さっきも指摘したように鞄まで消す意味がないからね。けど、トワイライトの協力者としてなら充分活躍していたよ」

 穂村が微笑んだのを見て、僕は続ける。

「まず穂村は、失踪事件が委員長の自演だと思われないよう、僕に嘘の証言をした。密室状態のトイレで、いかにも誰かに消されたかのように見える作り話を考えてね。その辺の打ち合わせは直前のHRでしていたんだろう。あの時、委員長と穂村は二人で話し合っていたし」
「でも、それだけじゃ私が共犯っていう証拠としては弱いんじゃない?」
「いや、穂村が共犯という確かな証拠はあったんだよ。───視聴覚室でね」
「? 私なんかミスしたっけ?」
「トワイライトが話している途中に、モニターの電源が入っただろ? 校内放送は放送室で管理できるけど、モニターはリモコンで操作するものだ。あのとき、視聴覚室には僕と穂村しかいなかった。ってことは、リモコンを操作できるのは穂村しかいないよね」
「あ、そっか」

 ぺろっと可愛く舌を出す穂村。

「で、スピーカーを通して話していたトワイライトですけど、まず希ちゃんは除外されます。部外者である彼女が校内に入って好き勝手できたとは思えませんから。あれは戸川先生だと思いますが、どうでしょう?」

 我が担任は素直にホールドアップ。

「あのとき、トワイライトは合成音声を使って地声を隠していた。それは僕たちが声を知っている人物だったから。そして、僕が放送室に向かうのを止めたのも、自分の正体がバレることを恐れたからです」
「質問! そのトワイライトも委員長だって可能性はないのか?」

 宝生が手を上げて質問する。

「確かに委員長も可能性としては考えられるけど、すでに消されたことになっている彼女が校内をうろうろするのはマズイよね。万が一僕たちと鉢合わせでもしたら、それこそ計画がすべて台無しになってしまうから」

 納得したのか、宝生は手を下ろした。

「でも、モニターに映っていた時葉はどう説明するの? あんな短時間で学校から『ストア・ヒル』までは移動できないでしょ?」
「うん。穂村の言うように、例の廃倉庫まで一瞬で移動することは不可能だ───あの映像が本当に今日撮影されたものならね」
「あれが別の日に撮られたっていう証拠でもあるの?」
「うん。僕もそれに気付くまで少しかかったんだけどね。ずばり、ポイントは太陽の位置。映像では、天井付近に設置された窓から射し込んだ光が、そのすぐ下で眠る委員長の横顔を照らしていました。これは太陽がそれだけ高い位置にあることを示しています。もし低い位置にあるなら、もっと倉庫の奥まで光が届くはずですから。しかし、委員長が消えたのは放課後……ほとんど夕方といってもいい時間なのに、太陽がそんな高い位置にあるのはおかしいですよね」
「あ」
「なるほど」
「へえ」

 と、皆それぞれ感心する。委員長も補足を加える。

「本当の私はトイレに例のカードを残した後、早々に下校したわ。商店街で鈴笠君たちと待ち合わせして、みんなで誕生日会の買い物をしていたの。ちなみにあの映像はこの前の休日に撮ったものよ」
「まあ、そんなわけで。僕はまんまとみんなの手の上で踊らされて『ストア・ヒル』で希ちゃん……いや、魔術師トワイライトと対決することになった。彼女との勝負に勝った後、委員長が成田探偵事務所にいることを教えられ、ここでようやく真帆さんとリュウさんも、この計画に一枚噛んでいると分かりました。思えば、安楽椅子探偵の真帆さんはともかく、行動派のリュウさんが数日前から探偵事務所に籠っていることに、もっと早い段階から疑問を持つべきでした。とある事件について調査している、というのは嘘で、本当は僕に内緒でこの誕生日計画を練っていたんですよね?」
「ええ。ちょうどこの時期に希ちゃんが引っ越してくることになったから、彼女の歓迎会の意味も込めて。潤君のクラスメイトにも協力してもらったのは、彼女が新しい学校でもうまくやっていけるように友達を作ってもらおうと思ったからなの。もっとも、彼女の父親はすごく有名なマジシャンで、全国各地を飛び回らなきゃいけないから、そう長くはいられないけど……」
「さっきも言ったが、潤を騙していたことについてはすまなかったと思っている。でも、彼女のためでもあるんだ。分かってほしい」

 申し訳なさそうな顔をする二人に、僕は微笑んで見せた。

「謝らないでください。僕自身すっごく楽しめましたし、やっぱり真帆さんとリュウさんは立派な探偵ですよ!」

 僕は、もう一人の主役を横目で見る。

「さあ、諸君! 天才魔術師トワイライトが繰り出す奇跡をとくとご堪能あれ!」
『うぉぉぉおおお!!』

 彼女はとても楽しそうに笑っていた。



 おまけ ~語られなかった謎解き~

 潤君の誕生日会兼あたしの歓迎会が終わったのは、もう夜十時過ぎだった。
 潤君のクラスメイトたちは真帆さんとリュウさんの運転する車で自宅まで送ってもらった。あたしも『乗っていくかい』と誘われたけど丁重に断った。
 潤君の推理は見事だった。けど、あれですべてが語られたわけじゃない。彼は一つ見落としている。
 あの場に犯人が全員集まっていたのだとしたら、“誰があたしを『ストア・ヒル』からここまで送り届けてくれたのか”という疑問が残る。
 あたしは事務所からほど近い喫茶店に入った。

「やあ。歓迎会は楽しかったかい?」

 隅のテーブルに座っていた男が軽く手を上げた。地毛にしては明るすぎる茶髪を赤いゴムでくくっている。

「うん、とっても! でも、虎季お兄様は本当にあの場に参加しなくてよかったの?」
「うん。多分僕が行っても雰囲気を悪くするだけだから。でも、そうだね。近いうちに龍貴とは勝負することになるんじゃないかな」

 それは、どこか決意ある瞳のように見えた。
 お兄様は、よっこらせ、と立ち上がると、

「じゃあ、夜も遅いし、送ってあげるよ」

 夜の街を一台の車が音もなく走り抜けて行った……。


 ~終わり続く~



ちょっと推理がごちゃごちゃしてしまった感はありますけど、これでこの短編(注:23,000文字)は終わりです。
『Seasons』の一つの二次創作小説としてお楽しみいただけたら幸いです。最後の虎季の言葉から予想できると思いますが、時系列的には本編『奇苦』の手前という位置づけとなっております。
まあ、多少矛盾している所はあるんですけどね(汗

この後、希ちゃんが潤の高校に転校してからの活躍を描いた作品を書こうと思っていますが、真帆さんが「そう長くはいられない」と言っているように、彼女がこちらにいる期間はいまのところ一年くらいと考えています(マジックは一か所に留まって披露するより、色んな所でやったほうが大勢のお客さんに楽しんでもらえますからね)

引き続き、彼女たちを温かく見守ってやってください。

それから、はやとにぃへ。
希ちゃんは本編に矛盾が出ない範囲で使えそうな設定だけ持っていっちゃってくださいな。

あと、『とある記憶のアラカルト』は希ちゃんの活躍のみを描く連載モノにすることにしたので、この話の続きもそのままあの作品に投稿することになると思います。なので、『鏡の~』のほうは、分割せず一つの短編で投稿します。まあ、まだ終わってませんが。

では、また明日~。

by broken-range | 2011-03-06 06:41 | 短編企画